紅茶には様々な種類や飲み方があり、普段からこだわってフレーバーを選んだり、アレンジを楽しんだりしている方は多いはず。でも紅茶がどうやって作られているのかは知らないという人もいるのではないでしょうか。今回は、紅茶の栽培から製造方法までをご紹介しますが、実際は各茶園やマネージャーのこだわりによって様々です。その違いがおいしさの違いだったりします。そんな奥の深い紅茶製造を知ると、もっと紅茶が面白く!他のお茶との違いも解説します。
茶葉の栽培と適採
茶葉の製造は、まず茶葉を栽培することから始まります。茶葉の主な栽培方法は下記の2つです。
かつての栽培方法
親木から茶の種子を採り、苗床にまいて育て、若木にして茶園に移植させる方法です。3~4年で摘み取れるようになります。栽培し始めてから摘み取るまでの期間が長くかかります。
現在よく使われている方法
最近の主流は優れた母樹から1節1葉をとり、苗床に挿して育てるクローン栽培という手法。こうすることで優れた遺伝子を引き継ぐ茶樹を栽培できます。
茶葉の育成と茶摘み
カレルチャペック紅茶店が日本独占契約をしているルンビニ茶園のマネージャーは、茶摘みをした時点で、おいしさの80%が決まると言っています。おいしい紅茶の条件の1つは、良い環境で適切に栽培され、適切な部位のみの茶葉であることなのです。
紅茶はお湯と葉っぱだけの単純な飲み物。だからこそ、その品質はダイレクトに味に影響します。さらに、紅茶は農作物です。野菜などと同じく、その育った環境も味に大きく影響します。きれいな空気・土・水の良い環境が、おいしい紅茶には必須です。
また、茶葉は新芽とその下の若葉2枚の1芯2葉までの若い部分においしさ成分がたっぷり含まれます。
下の方の葉は大きいので量が取れ、色も濃くでますが、品質は大きく劣ります。1芯2葉だけを摘むのは機械ではできません。手摘みだからこそ叶えられます。
どんなに腕の良い料理人がいても、使う材料が痛んでいてはおいしい料理はできません。同じく、紅茶の製造といっても、茶葉の品質こそが紅茶のおいしさを決めているのです。
紅茶の基本的な製造方法
紅茶の製法の基礎は、約200年前に中国で確立されました。当時はその全てが手作業でしたが、現在ではその大半を機械が行っています。
オーソドックス製法
現在使用されている方法の中で最も古典的な製造法です。
1.萎凋(いちょう)
萎凋は生葉に含まれている水分の約半分を取り除き、しおらせる工程です。萎凋することによって、次の揉捻(じゅうねん)の作業がやりやすくなります。
摘み採られた生葉には、たっぷりと水分が含まれていて、その重さは総重量の約77%。この工程を経ることで水分が抜けて、生葉の総重量は60~65%に減少します。
萎凋の程度は手で握って確かめることができ、葉がしおれた状態で握りしめたときに、茶葉に指の跡が残ります。また、このときの葉はリンゴのような甘い発酵の香りが工場を包みます。
2.揉捻(じゅうねん)
揉捻では茶葉の細胞組織を破壊し、葉の中の酸化酵素を含んだ成分を外部に絞り出します。空気に触れさせることで酸化発酵が促されます。揉捻機と呼ばれる機械を使って茶葉を圧迫しながら揉むことで茶葉の発酵を促進。紅茶の特徴的な香り・味・コクを作り出していきます。
3.玉解き・ふるい分け
揉捻工程で塊になった茶葉をほぐして、茶葉全体を空気に触れさせてさらに酸化発酵を促します。
この工程で使用される機械が自動玉解機です。この機械は粗いメッシュが上下左右に動く仕組みになっていて、十分に揉捻された小さい茶葉のみがふるい落とされます。
逆にふるいに残った茶葉は、十分に揉捻されず大きすぎる状態。再度揉捻が必要な茶葉は再び揉捻機にかけられます。
4.発酵
湿度と温度を整えた発酵室で専用の台や棚の上に茶葉を置き、発酵をさらに進めます。この時の茶葉に手を入れると、じんわり温かく、発酵していることを肌で感じられます。発酵しすぎると、紅茶の命である香気やアロマが台無しになってしまい、抽出したときの色が黒っぽくなります。
酸化発酵の程度は、茶園によってはもちろん、味のゴールによっても変わります。そして天気によっても。時間・温度・湿度を調整して紅茶のおいしさを引き立たせるのは、熟練の技の1つです。
5.乾燥
発酵終了時の茶葉の水分は約60%です。このまま放置するとさらに発酵が進んでしまうので、茶葉で起こる化学変化を止めるため、乾燥機に入れて水分3~5%まで乾燥させます。
乾燥して酸化酵素の活性が失われた茶葉では、それ以上発酵が進むことはありません。これで荒茶の完成です。
6.等級区分(グレーディング)
荒茶を篩にかけて、形やサイズを統一させ、茎などの異物を取り除きます。
アン・オーソドックス製法
紅茶の需要の高まりとともに、より効率良く茶葉を大量に生産することが求められています。大量生産のために発明された製造方法は下記の2つです。
●CTC製法
特殊な設計のCTC機という揉捻機を使用した製法。CTCとは、“CRUSH(押しつぶす)”“TEAR(引き裂く)”“CURL(丸める)”の頭文字をとったものです。
ティーバッグの原料に使用されることが多く、需要の増加とともに急速に普及し、現在では紅茶生産量の半分を占めています。
CTC機は1930年代に考案された特殊設計の揉捻機です。ステンレス製の2本のローラーからなっており、ローラーの隙間に茶葉を巻き込みます。
ローラーには突起物や刃が付いていて、その2本のローラーが回転することで隙間にある茶葉の細胞組織を破壊・切断。それによって1~2mmの丸まった小さな茶葉が出来上がります。
CTC製法の茶葉は確かに色はすぐに濃くでますが、紅茶特有の爽やかな香りとキレが失われてしまうようにも思え、カレルチャペック紅茶店ではあまり取り扱いはありません。
●ローターバン製法
1958年にインドで開発されたローターバンという大型の揉捻機を利用する方法です。この機械は「肉ひき機」の原理をもとに設計されています。2~3台の少ない機械で萎凋から乾燥まで行うため、オーソドックス製法と比べてスムーズな製造が可能です。
セミ・オーソドックス製法
ローターバン機とオーソドックス製法を併用した製法です。特にインド・スリランカで広く普及しています。この製法では、揉捻開始から乾燥まで約2時間半かかっていた工程が、約1時間半に短縮されました。
他のお茶と紅茶の製造方法の違い
紅茶の他に、緑茶、ウーロン茶など様々な種類のお茶がありますが、これらの原料は全て「カメリアシネンシス」というツバキ科の植物です。「実はお茶の種類の違いは、原料の違いではなく、製造過程での発酵の程度の違いです」と言われますが、それはあくまで種類の区別です。
発酵の程度さえ変えればそのお茶になるのではなく、それぞれに適した育成環境と製造方法があり、だからこそ名産地があるのです。
発酵茶
酸化酵素を利用して味や香りを生み出したお茶。つまり紅茶のことです。茶葉に含まれる成分であるカテキンが酸化して赤くなっているため、茶葉の色も赤褐色になります。
半発酵茶
半発酵茶は茶葉を発酵させるものの、その程度が発酵茶に比べて低いです。半発酵茶のほとんどは中国で作られていて、発酵の程度を調節することで様々な種類のものが生産されています。日本で最も有名な半発酵茶はウーロン茶です。
不発酵茶
茶葉は摘んだ後に放置しておくと発酵が進みますが、熱を通して酵素の動きを止めることで発酵を防げます。この原理を利用して作られた発酵させていないお茶が不発酵茶です。一般的に不発酵茶と言うと、緑茶のことを指します。
日本では茶葉を蒸すことで発酵を止める「蒸し製緑茶」が多いのに対し、中国などの国々では炒って酵素を止める「炒り製緑茶」がよく生産されています。
知れば知るほど楽しい紅茶の話
いかがでしたか?茶樹を育てる段階から最後のグレーディングの細かさまで、どの段階をとっても、作り手の熱意とおいしさのゴールによって各々のこだわりがあり、紅茶の製造方法といっても様々です。そんなことに思いを馳せて飲んでみる1杯も素敵ですね。ぜひ紅茶の世界を深くお楽しみください。